2013年9月22日日曜日

「カドラ通信」続報


8月31日にこのブログで「北朝鮮で公開処刑」という「カドラ通信」という文章を書いた。しばらくこの件に関する情報は出てこなかったのだが、9月20日に朝日新聞デジタルが「正恩氏夫人に醜聞か 所属した楽団が解散、公開処刑も」という記事で、この件に関するものと思われる記事を公開した。朝日新聞デジタルの記事は情報のソースについても書かれていて上記の「カドラ通信」より信頼度は高い。なお、朝鮮日報は「北, '리설주 포르노설' 보도에 "우리 최고존엄 모독… 극악한 도발"(北、'李雪主ポルノ説'報道に"われわれの最高尊厳の冒涜…極悪な挑発")」という記事で、北朝鮮の朝鮮中央通信の文章を紹介している。この文章を書いている時点で、朝鮮中央通信の原文が検索できないが、朝鮮日報の記事によれば、朝鮮中央通信は「ポルノ説」は謀略であり卑劣な中傷だと強く非難しているという。

北朝鮮に関するこの種の情報はよほど特別なソースを持っていなければ確認はできないので、報道を頼りにするしかないのだが、今回の記事の情報ソースは「脱北した北朝鮮の高官」ということで、そのような証言があったことは日韓の政府が確認しているとのことなので、真偽の判断は読者がその情報ソースを信じるかどうかということになる。
ただし情報ソースの信頼度の判断は難しい。ソースに関する情報が詳しく伝えられていれば、それだけ信頼度は高くなる。「北朝鮮の関係者」よりも「北朝鮮の高官」の方が信頼度は高く、「北朝鮮の高官」よりも「最近脱北した北朝鮮の高官」の方が信頼度は高い。ここにその高官の氏名や北朝鮮での職位が加われば、さらに信頼度はあがる。情報の内容も「自分が直接確認した」ということであれば信頼度は高くなるが「〜という話を聞いた」ということだと信頼度は下げなければいけないし、内容が具体的であればあるほど信頼度も上がる。ただ亡命者の供述は、自分が重要な地位にあることを誇示するための誇張や歪曲が行われていることがあるので、その他の補強情報が必要になると同時に、供述の内容を100%信頼することはできない。また脱北者の話だということなので、報道機関の独自の取材による情報ではなく、国家情報院がリークしたか、国情院のリークでなければ、脱北を支援した人からの情報ということになる。国家情報院のリークだとすれば、こうした情報をなぜ国内ではなく外国メディアにリークしたのか、その意図についても配慮しなければならないし、脱北支援者からの情報なら支援者の信頼度も考慮しなければならない。北朝鮮関連の情報を読み解くのはなかなか難しい。
今回の報道は、情報ソースの信頼度としては以前の「カドラ通信」より高く、外国メディア(朝日)が先に報じたことから考えると国情院からのリークよりもこの記事を書いた記者とつながりがある支援者周辺からの情報である可能性が高い。また供述内容に具体的な内容があること、一部について事実が確認されているらしいこと、前回の「カドラ」以後に時間が経っている(ので事実関係の取材が行われたと思われる)ことなどから考えると、個人的には、李雪主が関与していたかどうか、どのようなポルノだったのかはともなく、楽団に何らかの致命的な不祥事があり、その責任が問われて関係者が処刑された事件があった可能性は高いと思う。少なくとも今度は前回の「カドラ通信」よりマシではあるが…。
ところで全くの余談なんだけど朝日新聞デジタルの記事の最後に「デニス・ロッドマン氏が今月に訪朝した際、ジュエと名乗る正恩氏の娘を抱いた」というのは誤解を招きそうな表現だなー。

9/22追記: 朝鮮中央通信の論評「우리의 최고존엄을 걸고드는 자들은 값비싼 대가를 치르게 될것이다(我々の最高の尊厳に食ってかかる者は高い代価を払うことになるだろう)」という記事を見つけた。URLが取れないので朝鮮中央通信のサイトから9/22付の記事を探してほしい。内容的には必ずしも「ポルノ説」だけでなく、最近の南側による金正恩に批判的な報道を「嘘、謀略」とし、「八つ裂きにすべき大逆罪だ」といつもの調子で強く避難している。ぼくの知識では、この記事の内容については書かれていること以上の真実は読み取れない。
ただ、この論評の中で「大逆罪」という言葉が使われているのが面白い。「大逆罪」というと、本来は皇室や王室に対する罪なのだが、金正恩に対してこの言葉が使われているというあたり、本格的に金一族は王族なんだなあと思う。日本人の一部に天皇についての暴言で怒り狂う人がいるように、北朝鮮では金一族への暴言は絶対的なタブーというわけだ。先日、南北離散家族の対面行事が突然中断されたというニュースが流れて突然のことに驚いたのだが、あるいは上記のニュースが北朝鮮のタブーに触れてしまったことが原因なのかもしれない。とにかく相手が王様なのであれば、それが善であれ悪であれ、もうこれは議論の対象ではなく、問答無用で奉るべき対象だ。そのつもりで付き合うしかない。
9/23追記: その後、この件について韓国側の情報などを調べてみたが、李雪主と公開処刑の関係については確認できるような情報は何も出てこない。結局、本文に書いたように「楽団に何らかの致命的な不祥事があり、その責任が問われて関係者が処刑された事件があった可能性」以上ではない。韓国のラジオ番組では「これは誤報といっていいと思う」という話もあった。よく考えてみると、今回の朝日の記事の情報ソースは「最近脱北した北朝鮮高官」ということになっているけれど、これも相当怪しい。あるいは誰かが「脱北した高官」から聞いた話を伝え聞いた内容を記事にしたのかもしれない。
本文で「前回のカドラ通信よりマシ」と書いたけれど、「前回のカドラ通信とたいして変わらない怪情報」と考えるべきかもしれない。

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