2015年3月4日水曜日

カフェ・ティモール


PARCICで買ったカフェ・ティモール
PARCICで買ってきた東ティモールの生豆(カフェ・ティモール)。
このカフェ・ティモールは割とポピュラーで、あちこちで飲める。普通においしい。
焙煎豆も売っているので、普通に飲みたければ焙煎豆を買ってきて飲めばいいんだけど、ちょっと思うところがあって、常々もう一段階深く焼いてエスプレッソで飲んでみたいと思っていた。以前は生豆の少量の小売をしてなかったんだがしばらく前から生豆も売るようになった。
昨日、小川町の方に用事があって、ちょっと時間があったので小川町のPARCICに寄って「1キロください」と言ったら、しばらく奥でごそごそやっていて、「はい!」とZiplogのバッグに入れて渡してくれた(写真)。2014年のニュークロップだそうな。

値段は、普段飲んでるアンフェアトレードのブラジルの二倍の価格だけど、まあ、フェアトレード/有機栽培だったら良心的な価格かもしれない。欠点豆も少なくて生豆の品質はいい。とりあえず、フルシティまで焼いてみた。
カフェ・ティモールの生豆
東チモールのコーヒーは、まあ、飲んでみれば単なる普通のコーヒーである。フェアトレードだの有機栽培だのと言っても、特別においしいわけでもなく、特別においしくないわけでもなく、普通においしい。もうちょっと安ければいうことないけど。

ただ、東ティモールのコーヒーは、ただのコーヒーとしてばかりではなくて、それにまつわるいろんな物語が面白い。ポルトガルがティモールに入ってきてからの歴史や独立後の経済的な自立への努力、日本の関与とフェアトレードといったあたりもいろいろな物語がある。戦時中はしばらく日本の占領下にあった地域でもあって、そのあたりのことも現在の東ティモールコーヒーと微妙にからんできて、そんな話を聞くと「コーヒーでも飲んで応援するか」という気になったりもする。そのへんの話はいろんなところに書かれているので、ここではちょっとマニアックな話をひとつ。

フルシティに焼いてみた
このカフェ・ティモールもそうだけど、東ティモールのコーヒーは本来なら交配しないはずのアラビカとロブスタが突然変異か何かで自然に出来たハイブリッド種で知られている。というか、知ってる人は知っている。普通は知らないと思うけど。
東ティモール以外でもいくつかそうした自然交雑種が見つかっているそうなのだが、東ティモールで発見されたこのハイブリッド・ティモールという品種は、アラビカの風味とロブスタの生産性・耐病虫害性を兼ね備えていたことで、その後、爆発的な人気を呼ぶことになる。
品質が良いとされるアラビカ種のコーヒーはサビ病という病害に弱く、一度、これが流行すると広い範囲に渡って全部やられてしまって、国中のコーヒーが全滅なんてこともあったらしい。たとえば、スリランカは今では紅茶で有名だけど、19世紀前半にコーヒーが持ち込まれてからはコーヒーの栽培が盛んだった。ところが1868年(一説では1869年)に発生したサビ病の大流行でスリランカのコーヒーが全滅してしまい、その後はコーヒーの木からお茶の木への植え替えが進み、今のように紅茶で有名になったという。
とにかくサビ病ってのはコーヒーにとって実に恐ろしい病気で、世界中でサビ病にやられた農園がこのハイブリッド・ティモールや、ハイブリッド・ティモールをさらに品種改良したカティモールなどの品種への植え替えを進めたんだそうだ。その結果、今では一部のスペシャルティコーヒーを除けば、世界の大部分のコーヒーがこのハイブリッド・ティモールを祖先に持つ品種だという(図参照。図中で左下の方にある「ハイブリッド・デ・ティモール」がそれ)。言い換えれば、今のコーヒーの世界があるのも、東ティモールで見つかったこのハイブリッド種のおかげ、というわけで、この東ティモールコーヒーは実に偉大なコーヒーの品種なのである。
コーヒー栽培種の系統図(出典はWikipedia)

東ティモールのコーヒーは「ちょっと苦味が強い」と言われる。これはロブスタの遺伝子が出す苦味らしい。それで、ハイブリッド・ティモールはもっとすっきりしたアラビカ本来の風味を持つ品種へと改良されてきたわけで、その意味ではこのカフェ・ティモールは洗練されたコーヒーとは言えないのかもしれない。
ただロブスタ的な苦味はそんなに嫌われるような味なのかというと、必ずしもそうでもないと思う。たとえば、イタリアン・エスプレッソでは苦味や深みを出すために意図的にロブスタを ブレンドすることがある。アイスコーヒーにはロブスタが大量に使われていて、ロブスタの苦味は暑い日のアイスコーヒーにはむしろアラビカ100%の上品なアイスコーヒーよりおいしい。もちろんコーヒーの鑑定士がやるようなカッピングの世界では、ロブスタのブレンドなんてもってのほか、ということになるのかもしれない。嫌な苦味と麦茶みたいな変なロブスタのにおいは余計な味、雑味として、無条件に否定されてしまう。専門家でもマニアでも評論家でもない単なるコーヒー好き、エスプレッソ好きな人間が毎日飲むコーヒーに、ロブスタ的な苦味・雑味があってもそれはそれで個人的な好みの範囲の話でしかない。コーヒーのマニアだったら「雑味も味のうち、なんてことを言うのは素人だ」というかもしれないけど、だって素人なんだもん。もちろん「雑味も味のうち」なんて言うコーヒーの専門家がいたら、その人の言うことは眉に唾をつけて聞いたほうがいいね。
ちなみに、ぼくはカフェ・ティモールを飲んでも全然いやな苦味なんて感じない。というか、そんなことを気にしていたらコーヒーなんて飲んでられない。カップがどうこう言うのは売る側の論理。飲む側は豆が苦ければあっさり淹れるとか、いくらでもおいしく飲む方法はあるんだから。

ロブスタで思い出したけれど、昔、スタバが流行り始めて日本でもエスプレッソが話題になっていた頃、PARCICで東ティモールコーヒーについてあれこれ話を聞いたことがある。
その時、焙煎済みのパッケージは(深めの焙煎ではあるんだが)エスプレッソにするにはちょっと浅いので「PARCで東ティモールのエスプレッソ・ローストを出したらどうだろう」と言った。そうしたら「東ティモールは苦味があるから」みたいなことを言われて、「まあ、売れないでしょ」ということになったような記憶がある。それ以来、東ティモールのエスプレッソのことは忘れてたんだけど、最初に書いたように、しばらく前からPARCICで生豆を売るようになったので一度、エスプレッソ用にローストしてやろうと思ってたというわけ。まだ飲んでないけど、悪くないはず。

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