2013年3月16日土曜日

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 3

「不当なことで利益を得る(1)」「不当なことで利益を得る(2)」の続編、その3です。

不当なことで利益を得る(3)

ISDの守護者、仲裁者クラブ

By クォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft / 2013年2月20日、4:32 PM

最近、ローンスターと韓国政府が仲裁者を選任した。ローンスターが仲裁者に指名したチャールズ・ブロワー(Charles Brower)は、2005年までの37年間、米国のローファーム、ホワイト・アンド・ケース(White&Case)に在籍し、この報告書が選定した国際仲裁市場を牛耳る仲裁者の2位に選ばれた人物だ。

ブロワーは、これまで知られている450件のISDのうち33回仲裁人に指名され、このうち94%は投資家により指名された。続けて韓国政府も仲裁者にブリジット・スターン(Brigitte Stern)を選任したという。ブリジット・スターンは、この報告書が選定した仲裁者の1位だ。この報告書は仲裁者が決して中立的でないどころか、企業に好意的な投資仲裁システムを作るパワーのある行為者になる理由を暴露している。

仲裁「マフィア」

仲裁者たちは、あまり世の中に知られていない。だが仲裁者は互いをよく知っている。学界とジャーナリスト、そして内部の人たちは、彼らを「小さくて、秘密っぽく、クラブ風の」、「インナーサークル(inner circle)」あるいは「仲裁『マフィア』」と描写している。クラブを小さく維持することは、仲裁者が投資仲裁システムをしっかり捉えていることを意味する。

匿名の国際法研究者によれば、似た価値、似た教育、似た観点でまとまった小さなコミュニティが維持されるため、投資仲裁システムが見えないという。彼によれば、仲裁システムの動き方についての仲裁者間の一貫した観点は、仲裁システムの生存に必須だと彼は主張する。だから仲裁者たちは「そのシステムを守る役割を果たす」のである。

この報告書では、これまでに知られている450件のISDを担当した仲裁者が誰なのか、投資家が要求した賠償金額がいくらなのかを調査した(最終的に判定された賠償金額は分からないことが多い)。仲裁をした件数が多い順に15人のエリート仲裁者を選定した(下表参照)。単に15人の仲裁者が今までに知られている450件のISDのうち247件(55%)を担当した。圧倒的に集中している。

そして、2003年から2010年に提起されたISDのうち、投資家が請求した賠償金額が1億ドル以上の事件を調査して順位を付けた。2010年までのISDで、一番高額な賠償金を請求したのは、エネルギー会社のYukos、Hulley、Veteran Petroleumがロシアを訴えた訴訟だ。1036億ドルを請求した。次はConocoPhillipsがベネズエラに300億ドルを請求した。

15人のエリート仲裁者たちは、1億ドル以上の賠償金が請求されたISD 123件のうち79件(64%)を担当し、40億ドル以上の賠償金が請求されたISD 16件のうち12件(75%)を担当した。賠償金が大きいISDほど、15人のエリート仲裁者に集中していることが分かる。


図1

投資仲裁システムの生存は、相互にとても強い凝集力でつながった小さな仲裁者クラブ次第だと言える。15人のエリート仲裁者たちは、皆少なくとも1回は同じ訴訟で他のエリート仲裁者と共に仲裁判定部を引き受けた。15人のエリート仲裁者が共に仲裁判定部を担当したISDは69件あった。

Marc LalondeはFrancisco Orrego Vicunnaと5回、同じ仲裁判定部を引き受け、L Yves FortierはStephen M. Schwebelと5回同じ仲裁判定部を引き受けた。Brigitte SternはMarc Lalonde、Gabrielle Kaufmann-Kohlerとそれぞれ5回ずつ同じ訴訟で仲裁判定部を引き受けた。その上、ローンスターと韓国政府が選任した仲裁者のCharles BrowerとBrigitte Sternは、4件のISDを共に引き受けた。場合によっては3人の仲裁判定部を15人のエリート仲裁者に入る人が引き受けた。こうしたケースは15件もあった。

このうち、3人の仲裁判定部とどちらかの代理人が15人の仲裁者に入っているケースは7件ある。代表的な例としては、歴代最高の賠償金1036億ドルを要求したYukos、Hulley、Veteran Petroleumとロシアとの訴訟で、仲裁者パネルはYves Fortier、Daniel Price、Stephen M. Schwebelだ。Emmanul Gaillardは投資家を代理した。

ロシアは2002年までエネルギー産業民営化を推進し、2003年5月に「ロシア エネルギー戦略:2020年まで」を発表し、エネルギー産業に対する国家統制を強化して、大企業形態の国営エネルギー会社の育成計画の下で、2004年から民間企業による運送パイプライン建設を禁じ、外国系会社の持分を49%までに制限した。

こうしたロシアのエネルギー戦略の実行の過程で、2003年に当時ロシアで1位のエネルギー企業だったYukosの会長が、脱税や横領で拘束され、2004年には未納税額のためにYukosの資産が押収されて競売が行われた。

これに対し、Yukosの株式を持っていた3つの企業は2005年、ロシアを相手にエネルギー憲章条約を利用してISDを提起した。3つの企業を代理したローファームのShearman &Sterlingが発表した依頼人機関誌「ユーコス:エネルギー憲章条約に対する歴史的な決定(Yukos:landmark decision on the energy charter treaty)」によれば、ロシアは1994年にエネルギー憲章条約に署名したが国内批准をしておらず、2009年8月にエネルギー憲章条約の会員国にならないと発表した。しかし仲裁判定部は2009年11月30日、Yukosなどがエネルギー憲章条約を利用してISDを提起することを認めると判定した。

同じISDで、仲裁と代理を同じローファームが担当したケースもある。特に、このような場合はISD制度の公正性を問うこと自体が無意味だ。Bayindir Insaat Turizm Ticaret Ve Sanayi A.S.とパキスタンとの訴訟で、Essex Court Chambersに所属するStephen M. Schwebelが企業側を代理し、同じ所属のKarl H Bockstiegelは3人の仲裁判定部の1人になった。同時に所属が同じ2人の弁護士が、パキスタン政府を代理した。

Chambersはローファームではなく、いわゆる自営業者弁護士の「職務共同体(office community)」と言えるので問題にはならないと主張するが、HEPとスロベニアとの訴訟で国際投資紛争解決センター(ICSID)の仲裁判定部は、仲裁判定部議長のDavid A.R. Williamsと、スロベニアが代理人に選定したDavid MildonがEssex Court Chambersに所属しているため、スロベニア政府はDavid Mildonに弁護を任せられないと決めた。

仲裁者の多くの地位

仲裁者は、弁護士、あるいは専門家として、証人としてISDに直接参加したり、政府の代表者や諮問を引き受けて政策に影響を与え、学界で問題を提起し、企業の代わりにロビイストとして活動したり、企業の理事会に参加する。これにより彼らは投資仲裁システムを維持し、利益を得る。こうしたことは、仲裁者にとっては平凡なことだ。

ローンスターと韓国のケースも同じだ。韓国政府の代理をしたアーノルド・アンド・ポーターのジーン・カリッチ(Jean Kalicki)とローンスターを代理したシドリー・オースティンのスタニミール・アレクサンドロウ(Stanimir Alexandrow)は、有名な仲裁者でもある。

この分野でとても華麗な履歴を持つ人を紹介しよう。ダニエル・プライス(Daniel Price)だ。プライスは典型的な投資仲裁チャンピオンではないが、一番多くの地位についた仲裁者を選べと言えば、当然プライスが1位だ。

投資協定交渉家、ISDを擁護する企業ロビイスト、企業の利益を防御するコンサルタント、新自由主義を促進するメディア解説者、仲裁者、これらはすべて彼の履歴だ。プライスは過去20年間、何回も回転ドア人事を経験した。プライスは、自分が交渉を促進した投資協定の受恵者だ。米貿易代表部の責任法務諮問委員になり、米露BIT(1992年署名)の交渉をした。彼はもまたNAFTAの投資保護条項について交渉した。彼は投資家-国家訴訟条項を考案し、企業にこの条項を利用して政府に対する訴訟を要求した初の米国弁護士の1人として知られている。

1992年、彼は初めて政府の要職から離れた。彼は投資仲裁産業に無限の利益を創出する可能性を見つけ、その産業を発展させることにした。2002年から2006年に、彼はメキシコ政府を相手にアリアンツ(Fireman's fund insurance)の代理となった。訴訟の間、アリアンツのためにホワイトハウス、米貿易代表部、国務省、商務省にロビーを行った。

また、モンサント、国際投資機構、米国の製薬会社と生命工学会社のためのロビイストとしても活動した。Yukosなどがロシアを相手にISDを提起した2005年から、ホワイトハウスの招請を受ける2007年まで、Yukosが指名する仲裁者だった。

プライスは米国のローファーム、Sidley Austinで国際投資紛争解決担当部で議長として4年間活動した後、2007年にジョージ・ブッシュ大統領の高位級の経済諮問を担当し、また米政府に戻った。

2008年に国際経済危機が頂点に達した時、彼は解決の方向性についての論争に影響を与える位置にあった。彼はG8(東京)でブッシュの特別代表を引き受け、2008年にワシントンで開かれた初めてのG20首脳会談を陣頭指揮した。G20は「私的財産の尊重、貿易と投資開放、競争的市場を含む自由市場の原則について約束すれば、われわれはこの改革が成功するだろうということを認める。開発途上国を含み、われわれは経済的成長に害を与え、資本の流れを悪化させる規制を避けなければならない」と話した。まさにプライスが支持してきた措置だ。

彼は2009年にローファームのSidley Austinに戻り、2011年にまた辞めた。彼はビジネスコンサルタント会社のRock Creek Global Advisorsと独立の法律業務の両方を始め、企業との関係を振興させる計画だ。彼は自分を中立的仲裁者と言い、企業に対し政府の規制を避ける方法についてコンサルティングをする。

投資協定に署名すること

誰もがご存知の通り、投資協定のISDでは、政府に訴訟をすることができるのは企業だけだ。仲裁専門弁護士や仲裁者にとって、この言葉は投資協定がなければ訴訟もなく、訴訟がなければ仲裁者や代理人には選任されないということを意味する。したがって、投資仲裁産業を成長させるには投資協定の締結を要求することが必須だ。

1990年代にJan PaulssonはNAFTA協定11条(投資保護)の交渉でメキシコ政府の諮問をした。そして彼は企業がメキシコ政府に提起した2件のISDで、仲裁判定部を引き受けた。Emmanuel Gaillardは政府の諮問は引き受けなかったが、2010年にモーリシャスで開かれた公開カンファレンスを活用して、モーリシャス政府が投資協定に署名するように奨励した。米政府を代表して、NAFTA11条(投資保護)の交渉を率いたDaniel Priceは、当時メキシコ政府がISDを受け入れるように積極的に圧力を加えた。その結果、メキシコ政府は別名Calboドクトリンと言われる原則-国内裁判所だけが外国人投資家が提起した訴訟の司法権を持つ-を捨てた。Calboドクトリンは、メキシコ憲法の一部だった。その後、プライスは米国企業のTate&Lyle Ingredients AmericasとFireman's fund insurance(アリアンツ)がメキシコ政府に対して訴訟をした時、これらの企業の代理をした。

曖昧な規則、さらに多くの訴訟

前編で言及したように、仲裁機構は特別な仲裁基準や規則は持っていない。投資協定文だけが根拠だ。したがって、投資協定の条項が曖昧であるほど、正確性が低いほど、企業が訴訟をする機会が多くなる。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)は「国際投資協定の条項は、厳密に表現されていない」と指摘した。その結果、投資協定の曖昧な規則を仲裁者がいかに解釈するかに全てがかかっている(UNCTAD 2011)。規則が曖昧なほど、仲裁者の役割が重要になる。

投資家にとって、公正かつ平等な待遇を提供する政府の義務(fair and equitable treatment、公正衡平待遇と呼ばれるようになる)はISDの重要な理由として登場した。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)によれば「投資家が訴訟を提起するとき一番よく依存し、最も成功的な根拠になっている」この条項は、一番質が低く、不明確な条項の一つだ。また、仲裁者が「公正で平等な待遇の概念を広く解釈してきた」と指摘し、「結論は、限りなく不均衡的な接近になる。投資家の利害を擁護し過ぎている」と結論した(UNCTAD 2012)。

2010年5月までに結果が公開されている140件のISDについての統計研究(2012)で、Gus Van Harten教授は仲裁者たちが投資概念、法人投資家、少数株主権、併行訴訟といった問題について、請求人(投資家)に都合がいいように拡大解釈する傾向が強いことを確認した。また仲裁判定では、投資家の国籍が強く作用する傾向を確認した。投資家が米国、英国、フランス、ドイツ国籍であれば、仲裁者は拡大解釈する傾向を見せた。

仲裁者が投資家の代理になる時も同じだ。NAFTA協定によるFireman's fund(アリアンツ)とメキシコの訴訟で、投資家はメキシコ政府が財政的投資を収用したと主張した。これは、メキシコ政府が1997年の金融危機の時に取ったエネルギー措置の結果だった。この訴訟の判定では、NAFTA協定受け入れ条項の解釈が決定的だった。噂によれば、投資家の代理をしたDaniel PriceとStephen M. Schwebelは「収用」が財産権の没収概念より広い方式で解釈されるように主張する82ページの報告書を提出した。

しかし仲裁者たちは、人権と社会権についての国際法の接近は制限的だ。2012年5月にヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は、ジンバブエに対して提起された2件のISDについて仲裁判定部に声明書(法廷助言)を提出しようとした。木材農場に関する訴訟だったが、ヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は紛争中の農場は先住民の先祖が住んでいた区域にあるとし、裁判の結果が土地に対する土着共同体の権利に影響すると主張した。

Yves Fortierが議長になった仲裁判定部はこうした憂慮を聞くことも拒否した。国際司法裁判所判事のBruno Simmaは、「経済的、社会的権利を考慮することは、投資家国家仲裁では例外」だと指摘した。

投資協定の改革を防ぐこと

ローンスターが選任した仲裁者のCharles Browerが「国際仲裁の基本的な要素を変えるいかなる提案も、仲裁機構には受け入れられない攻撃になる。反対に、こうした基本的な要素を強化する提案は、注意深く考慮されるべきだ」と言う程、投資仲裁システムの変化に反対する。

前編で、リスボン条約の発効後、ヨーロッパの投資政策について仲裁専門ローファームと有名な仲裁者が影響を及ぼす方法について言及したが、米国でも似たようなことがあった。

NAFTA協定の下でカナダの企業から、何回も訴訟にあった米政府が、2004年に1994 BITモデルを修正し、新しいBITモデルを導入した。2004 BITモデルは、米政府が特に保健と環境の領域で統制権を発揮できる政策空間が若干導入されたが、期待できるようなものではなかった。

米政府で要職に付き、20年間国際司法裁判所の裁判官を歴任した有名な仲裁者のStephen M. Schwebelは、こうしたささいな変化さえ非難した。米国を代表して投資協定の交渉をしたDaniel Priceも反対した。最も有名な仲裁者のひとりであるWilliam W. Parkは「こうした政策の変化は問題が多く、海外の米国投資家に相当な被害を引き起こすだろう」と話した。

そして2009年にオバマは大統領候補として、労働と環境に対する義務を強めるために2004モデルを再検討することを約束した。だが2012年に出された新しいBITモデルは、実質的な変化はなかった。2012年5月8日のTPP(環太平洋経済パートナー協定)交渉のために時を合わせて発表されたものだという。

主な変化は、これまでのISDに対する批判を反映させ、投資により「労働と環境」を傷つけないようにすること、「将来は控訴制を導入」してISDの透明性と公正性を強化することだ。だが3人の仲裁者が下した決定により、政府が損害賠償をする構造には変わりはなく、投資家が損害を受けないように国家主導経済を制限したため、実効性については批判的がある。当時、米国政府の諮問委員会の一員だったStephen M. Schwebelは、1994年モデルに戻すことを支持した。

最近では南米国家連合(UNASUR)が、国際投資紛争解決センター(ICSID)に代わる仲裁センターの建設を議論している。エクアドルのコリア大統領は、南米が自主的に紛争解決機構を創立することを提案し、ベネズエラのチャベス大統領もエクアドルの提案を支持している。チリ出身の有名な仲裁者、Francisco Orrego-Vicunaは、「非常に投資家親和的と見なされるICSIDのような機構を代替するという提案は良いアイディアではないと思う。なぜなら、そんな機構はほぼ確実に非常に政府親和的と認識されるだろうし、投資家は満足しないだろう」と主張した。

一方、投資仲裁システムに対する批判が強まっていることで、エリート仲裁者たちは現システムの基本には触れず、妥協する方案を探している。例えばWilliam W. Parkは、政府の統制がきく政策空間を回復させる立場をある程度受け入れ、「さもなくば投資家国家仲裁は投資家の勝利に反発する大衆的な圧力の犠牲になりかねない」と指摘した。

Honatiauはもっと直接的だ。彼は仲裁システムのすべての参加者の役割を再検討し、システムの作動方式の変化を受け入れる必要性を認め、「こうした代価を払うことによってのみ、数十年間、仲裁者は国際的な取り引きの「天賦の裁判官(natural judge)」として残ることができる」と話した。

Jan Paulssonは仲裁機関がさらなる透明性を持つために、紛争当事者が仲裁者を選任せず、仲裁判定部全体を選任するべきだと提案したが、仲裁システムの投資家に親和的な偏向については触れない。彼は国連の国際貿易法委員会(UNCITRAL)の規則に透明性の条項を入れる試みを阻止しようとするバーレーン代表を防御した。Charles Browerは仲裁コミュニティが「システム全体の根本的な再設計を要求しない」程度の大きさの改革だけしか受け入れる準備ができていないと指摘する。つまり、小さな改正を受け入れることで仲裁システムの構造的な変化を未然に防ぐのである。

原文(レディアン)

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